Cousin nephew's advice

JUGEMテーマ:ものがたり

 

 閉じられていた扉を開く。それを閉じたのは私だ。ここは私だけの部屋だから。私以外の誰かがこの扉を開くことはない。扉の鍵を持っているのは私だけで、この部屋にいるときでもいないときでも常に鍵を掛けていたから、私以外の誰にもこの扉を開くことは出来ないのだ。つまり私はこの扉を支配しているし、この扉の開閉を完全に制御していると言えるだろう。そしてまた、開閉される扉によって繋がり合ったり分断されたりする空間を、その接続や切断に強く干渉しているとも言えるのではないだろうか。この扉の鍵の所有者が私一人である限り、そういう意味で私は神に近しい存在であると言えるかもしれない。しかしよく考えてみると、同じような状況にいる人物はかなりたくさんいるだろうから、すなわち神に近しい存在もこの世界には掃いて捨てるほどいるのかもしれないな。そうすると、大きなホールを借りてその舞台上でスーパーナチュラルな真理を熱弁する誰かも、そんな存在の一人なのかもしれない。もっとも、私にはそういうことを熱弁することは出来ないけれど。

 扉を開くと、従姉妹の息子が立っていた。まだ私の胸くらいの背丈。私を斜めに見つめて、何とも言いがたい表情をしている。思い詰めているようにも見えるし、企んでいるようにも見えるし、分析しているようにも見えるし、何も考えていないようにも見える。そんな表情だった。

「お久しぶりです」

 従姉妹の息子、つまり従甥がいう。大人びた口調だ。

「久しぶり? 久しぶりなのかな? つまり、私の時間とあなたの時間は重なっているのかしら?」

 私の返答に従甥は首を傾げ、何度か眼球をくるくる踊らせた。

「変わらず、ヘンテコな感じですね」

 そういえば以前頻繁に会っていたときにも、彼は私のことをヘンテコだヘンテコだとよく言っていた。あれは三年前のことだったか。

「どうして、突然ここに来たの?」

「一つ助言したかったのです」

「助言?」

「そうです。僕の言葉に、耳を傾けてもらえますか?」

「うん」

 従甥は開いたままの扉の、その内側のノブを指差す。

「世界はここから始まっているわけではなく、むしろここで終わっているのです。あなたがここに留まっている限り、あなた世界の終わりの、その後を引き受けているのです。それでもあなたはこの扉の鍵の所有者で、唯一の所有者で、だから神に近しい存在であると言えますが、あなた自身からは遙かに離れた存在になっているのですよ」

 従甥は一旦口を閉じ、私を真っ直ぐに見つめる。やっぱり何とも言いがたい表情をしている。ただ三年前よりずっと高貴な顔立ちをしていることに気づく。

「旅に出なければいけませんよ。神から遠く離れ、あなた自身に限りなく近づくために」

 そ言うと、従甥は穏やかに微笑んだ。そしてコンクリートの地面に沈んで消えた。死してなお三年間、彼は私を観察し気に病んでくれていたのだろうか。そうであるならば、私はそろそろ次の旅を始めるときなのだろう。そう思った。

 何処かから、月桃の仄かな匂いがした。

 

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