思考戦車の退屈

JUGEMテーマ:ものがたり

 

 夜というものは黒い。黒いということは青い。青いということは深い。深いということは冷たい。冷たいということは硬い。硬いということは煌めく。煌めくということは夜だ。思考がループしたことに、僕はほっとする。同時にがっかりもする。でもまた思考すればいいだけで、違うループに入り込むことも可能だから、僕はすぐに気を取り直す。僕には時間はたっぷりある。たっぷり過ぎるくらいにあるのだから。

 一人は寂しい。夜しかないこの星の上では特に。といっても、僕はこの星以外の生活を知らない。僕が思考を始めたときには、僕はすでにこの星の上にいたのだ。目覚めたとき、つまり身体が目覚めたときで、僕が僕という存在に目覚めたときで、その二つが合わさって転がり始める事象が目覚めたとき、僕は僕が制作された場所から遠く離れた小惑星の上にいたのだ。思考する戦車として。

 それ以来、僕は黒い空を眺めている。時々母星からのコマンドを受け取り、こちらからもデータを送る。とても短いやりとりだ。簡素であることが最優先される対話だ。

「全て普通か? 送れ」

「何もかも普通」

 とかいう感じの簡素な対話だ。何を持って普通とするのか、僕は一瞬で判断しなければならないけれど、たいていの場合その判断はとても簡単だ。つまりこの星では何も起こらない。従って、僕自身に何の変化もない。変化がなければ普通ですとしか答えようがない。

「全て普通か? 送れ」

「とても退屈しています」

 なんて返したら、どうなるだろう。退屈を打ち消すプログラムを走らせてくれるだろうか。まあ多分、そんなプログラムは僕の内部のどこにもないだろうな。例えば退屈を吹き飛ばせるくらいのシューティングゲームを送信してくれたりするだろうか。それもないだろうな。もしとても壮大で絢爛なシューティングゲームを送信してくれたとしても、それをダウンロードしてインストール出来る自信が僕にはない。僕は結構貧弱なシステムで構築されているのだ。観測する、発見する、照準する、撃つ。僕はそれだけを実行するために作られたのだから。

 やってくるのかどうかも解らない見知らぬ敵から母星を守るために、僕はここにいる。

「全て普通か? 送れ」

「何もかも普通」

 そんな対話を繰り返しながら。実は僕は自信がない。見知らぬ敵を、敵として認識することが出来るのだろうか。だって見知らぬ敵なのだから。本当はすでに見過ごしていて、見知らぬ敵はとっくの昔に母星に到達していて、征服して、僕にコマンドを送っていたりするかもしれない。

「全て普通か? 送れ」

「そちらこそ普通ですか? 送れ」

 などと尋ねたら、どんな反応をされるだろう。見知らぬ敵が母星に到達していなければ、僕に某かの異常が発生したと思われるかもしれない。すでに見知らぬ敵に征服されていたとしたら、僕はアンシブル砲で吹き飛ばされるかもしれない。どちらも嫌だ。だから僕はそんなことは尋ねない。

 というわけで、僕はまた普通に夜を観測する。夜というものは黒い、と次のループを始めて見たりしながら。

 

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