Walking side by side

JUGEMテーマ:ものがたり

 

 昼食を買いにコンビニエンスストアに行ったら、賢者がいた。イートインに五人の賢者が集まっていたのだ。たしかここ最近は、このイートインは閉鎖されていたはずだ。でもきっと、賢者たちが使いたいと言ったので店員は拒めなかったのだろうなと思った。賢者なのだから。五人の賢者は皆老人だ。七十歳、八十歳、九十歳、そのどれにも当てはまるような相貌だった。でも本当は二百歳、三百歳なのかもしれない。その可能性は否定できないだろう。賢者なのだから。

 ところで、どうして彼らを賢者だと思ったのか。まずは空気だ。イートインのコーナーの空気がとても普通の感じではなかったのだ。何というか、煌めく感じ。空気が煌めく感じ。空気が清涼に煌めく感じ。それが伝わってきたのだ。まだ店内に足を踏み入れる前から、ガラス越しに。それに彼らの装束。中世の欧州貴族のような衣装と平安貴族のような衣装が混じったような装束を纏っていて、頭には烏帽子のようなボンネットのような冠り物があった。装束は色彩豊かだったけど、やわらかな中間色の群体で、自然のものや自然の現象を纏っているように思えた。

 賢者たちは、穏やかに会話している。その内容はよく解らなかったけれど、時々愉しそうに笑ったりしている。買い物を済ませ、ポケットの紙くずをイートイン脇のゴミ箱に捨てていると、賢者に声を掛けられた。

「なあ兄さん、調子はどうかね?」

 五人の内の誰に声を掛けられたのかよく解らなかったので、全員の顔を見回しながら答えた。

「まあまあですね」

「マスクをするのは面倒くさくないかね?」

 賢者たちの誰も、マスクをしていなかった。全員の顔を見回していたはずなのに、誰に訊かれたのか解らなかった。

「ええ、特に面倒ではありません」

「そうか、良い子だね。ゆっくり歩きなさいよ」

 やっぱり、誰がそれを言ったのか解らない。まるで六人目の見えない誰かが言ったかのように、五人が皆うんうんと頷いている。それが良いねと呟いたりしながら。

「並んで歩いて行きなさい」

 誰が発しているかではなく、賢者が発しているということなのだろう。誰が発してもそれは賢者の言葉なのだから、誰がではなく言葉そのものにフォーカスしないといけないのだろう。そう思った。

「蹴飛ばして転ばそうと思ったり、速度を上げて引き離そうとする必要などない。そんなことをしても兄さんが疲れるだけだ」

「誰と、並んで歩けば良いのでしょう?」

 僕の質問に、賢者たちは一斉にガラスの外を指差す。けれどその指先は全て違う方向を指し示している。それが答えを表しているのだろうけれど、僕には解らない。

「これは戦いではないんだよ。戦いではないが、負けることは決まっている」

 五人はまた頷き合う。

「さあ、ゆっくりと並んで歩いて行きなさい」

 何だかよく解らなかったけど、促されるままに店を後にした。何だかよく解らなかったけれど、気持ちが少し軽くなった気がしていた。

 

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