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JUGEMテーマ:ものがたり

 

 鎧と仮面を纏った旅人は、巨大な樹木に絡め取られている建物を発見した。最も近い恒星が、ちょうど中天に達しようとしていた時刻。旅人は乗ってきた四つ足の従者から降り、その建物に近づく。赤茶色の鉱石をブロック状に削って積み上げた壁を見上げる。扉があった場所は今は単なる穴だったけれど、それはとても大きく、ここは巨人の住処だったのだろうかと旅人は考えた。もちろん人型ではなく、手も足もなくてモサモサした巨大な球体型生物である可能性も考えてみたりした。

 可能性は無限大で、この場に立っていても何も解明できない。旅人はゆっくりと歩みを進め、建物の中に入っていく。その外観から博物館か図書館かと思っていたけれど、中はがらんとしていて展示物らしきものも書籍らしきものも見当たらなかった。旅人は仮面を操作して、薄暗い建物内部を見回す。壁も床も天上も。すると天上の一角に生体反応があった。外から見たこの建物の構造からまだ上にフロアがあると思われた。旅人は薄闇の奥に進み、そこに階段を見つけると、上のフロアへと上る。生体反応に向かっていくと、階段から一番遠い部屋に辿り着く。慎重に歩みを進めたが、外から見たほどにこの建物は朽ちてはいない。奥に進むと明かりもともっていて、この建物が機能の全てを失っているわけではないことが解った。

 部屋の扉に到達する。扉にはハンドルの類いが一切見当たらない。扉の脇に小さなパネルがあり、そこで何かを認証するのだろう。相貌とか光彩とか掌紋とかそういったものを。旅人は左手首の鎧をそのパネルに翳しハッキングを試みる。さほど時間もかからずシステムにアクセスできたようで、なめらかに扉が左右に開いた。この扉は稼働し続けているのだと確信させる動きだった。旅人は念のためにMAシールドを展開させる。しかし扉が開いても、攻撃されたりすることはなかった。

 部屋の一番奥に小さなランプが一つ灯っていて、その傍らに少女が横たわっていた。銀色のドレスを纏っていた。金色の長い髪を床に広げていた。白い肌がランプの光を吸い込むように光っていた。少女とランプはたくさんの書物に囲まれていた。よく見ると積み重なった書物の上に、少女は横たわっていた。シールドを収納し、旅人は少女に近づく。その動作で鎧が音を立て、その音が部屋中に複雑に響いた。旅人には、それが交響曲のように聞こえた。自分がその楽曲を操るコンダクターであるかのような気分になった。

 少女に手が届く距離まで近づいたとき、少女が瞼を持ち上げる。しばらくじっと旅人を不思議そうに見つめ、それから微笑んだ。

「あなたは天上から来た。そうでしょう?」

 瑞々しい果実のような声だった。

「鎧を着ているから、騎士様ね。天上から降りてきた仮面の騎士様ね」

 旅人は頷き、首を振る。

「天上から来たのは確かだけれど、騎士ではないよ」

「それは少し残念だわ。騎士様に出会ったことがなかったから、良い体験だと思ったのに」

「君は、長くここにいるのかな?」

「ええ、ずっと以前からここにいるわ。ずっと以前から、こんな感じで横たわっているの」

「いつから?」

「もう、解らない」

「ここに、暦はないのか?」

「あるわ。私の内部に。でももう上手く読み出せないの。あまりにも長い間そういうことをしてこなかったし、あまりにも長い間誰も私のメンテナンスをしてくれなかったから」

「君の外観は、この惑星の生命体に似せてあるのかな?」

「ええ、そうよ。それに外観だけじゃなく身体の大部分が相似なの。だから私もこの惑星の住人として正式に登録されているのよ。でもそのせいで、永久には活動できなくなってしまった。定期メンテナンスされていないとね」

「僕と一緒に旅をすることは出来ないかな?」

「きっと無理だと思うけれど、ここでこうしていることにも飽きてしまったから、試してみましょう」

 そう言うと、少女は四肢に力を込め起き上がる動作を始める。しかしその動作の途中で身体のあちこちが崩れ始め、首が外れて頭が転がり、その頭も崩れてしまった。

「メモリコイルは損傷していないから、データは生きているはず。良かったら持って行って」

 崩れた頭の一部分がくぐもった音声を発した。そして少女は全機能を停止したようだった。

 旅人は仮面を頭頂部に跳ね上げ、現れた六つの瞳で少女だった残骸を見つめ、その中からカプセルに閉じ込められた藍色のコイルを取り上げた。

『どうだ、そちらの様子は。何か見つかったか?』

 レシーバに母船からの声が響く。

「ああ、この惑星の住人だという存在に出会ったよ。すぐに崩れてしまったけれど。ただストレージらしきものを回収したので持ち帰る」

『了解。どんな存在だった?』

「人型だったよ。でも目が二つしかなかった」

『二つだって? それじゃあ単純立体視しか出来ないな』

「そうだね。僕らみたいな高次精細視は出来ないだろうね。これから帰還する」

『了解』

 旅人は仮面を下ろし、その部屋を後にした。

 

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