灼熱と姉の眼球

JUGEMテーマ:ものがたり

 

 十二日間も続く灼熱のせいで、もう都市はいろいろなものがドロドロだ。アスファルトが溶けてしまったので、街路を走る車の姿はない。こういうときには建物の中でじっと息を潜めて灼熱をやり過ごすしかないのに、こういうときに限って姉がソフトクリームを食べたいなどという。「一緒にコンビニまで出かけないといけないわよ」とそれがまるで私の宿命のように言う。まあ、こんな姉を持ったことは私の運命だけど。きっと前世で私は悪行の限りを尽くしていたのかもしれない。

 こういうときに外を移動するツールは牛車だ。我が家にも牛車は一台ある。けれど牛がいない。牛を常日頃からスタンバイさせておくのは結構大変なのだ。餌代が嵩むのはもちろんだけど、臭いのだ。姉も私も臭いのは嫌いだ。その部分は一致していた。たぶん他に一致している感覚は一つもないと思う。あっ、もう一つあった。私は姉のことが嫌いだ。そして姉自身も自分のことが嫌いだった。私と同じくらいに激しく。

 牛の代わりに我が家は麒麟をスタンバイさせている。牛よりも小さく餌も少なく、何よりもとても良い香りがする。その香りに誘われ、寄り添って鬣を撫でたりしていると、たまらない至福を感じたりできる。あまり長い時間それをしていると、思わず自身の心臓をえぐり取って捧げたくなってしまうので注意が必要だけど。

 何とかのらりくらりとかわそうとしてみたけれど、姉がしつこくソフトクリームソフトクリームとうるさいので、牛車を麒麟に引かせて出かけた。姉は牛車に保冷剤を敷き詰め寝転がって即興のソフトクリームの歌を叫んでいる。私は麦わら帽子とペストマスクで灼熱を凌ぎながら、麒麟を操る。麒麟はただただ暑いようで、すこぶる機嫌が悪い。それをなだめなだめてドロドロの街路を進む。

「なんてのろいんだろう。この麒麟は馬鹿なの?」

 麒麟が人語を理解できることを承知の上で、姉が言う。

「アスファルトのドロドロが、歩みの邪魔をしているのよ」

「それなら飛べばいいじゃない。やっぱり馬鹿なの?」

 麒麟の耳がずっと後ろを向いたままだ。鋭い苛立ちが伝わってくる。その耳に私は囁く。

「お願いだから飛んでおくれ。そのほうがおまえも楽でしょう?」

 麒麟が鬣を勢いよく波打たせその身体が宙に浮く。私も牛車も姉も宙に浮く。

「何で飛んでるの? 私が高所恐怖症なのを知ってるでしょう? 麒麟もおまえも馬鹿なの? 阿呆なの?」

 麒麟が金属質な鳴音を上げ、怒りを顕わにする。仕方がないので私は姉の左目を小刀でえぐり取り、残りの身体を全て麒麟に与えた。麒麟は宙を飛びながら、姉の身体を咥えて振り回し、時々放り投げて回転させ、錐揉みさせては咥えなおし、そしてまた振り回す。そうやってぎゃあぎゃあと泣き叫ぶ姉を散々弄んだ後に、ばりばりと平らげた。空になった牛車を切り離し、私は身軽になった麒麟の背に跨がる。これなら、コンビニまでもすぐに着くだろう。

 私は姉の眼球をポケットの仕舞う。コンビニに着いたらこの眼球から姉を再生しなければいけないので、なくさないようにしないと。ソフトクリームを食べれば、姉も少しは優しくなるかもしれない。

 優しくならなければ、また麒麟に与えてしまおう。

 

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