白百合の円舞と虹の種

JUGEMテーマ:ものがたり

 

 激しい雨の後、涼風に誘われて庭に出る。真上には洗いざらしの青空が、遠くには黒灰色の雲塊が見えた。乾いた風は貞淑だった。私にはそう感じられた。その風が軒先に吊した珊瑚片を揺らす。珊瑚片がぶつかり合い、音が鳴ったような気がした。そんな気がしたのにその音は私の耳に届かない。不思議に思いじっと珊瑚片を見つめると、煌めきが風に吹かれている。珊瑚片がぶつかり合うたびに煌めきが弾けて、それが風に乗って庭の隅へと流れていく。煌めきはそこから浜へと通じる石段を下っていく。サンダルを履き、私は煌めきを追いかけ、石段を覆う緑のトンネルへと飛び込んだ。

 潮が引いた砂浜は、さっきまでの雨のせいか全体が湿っていた。その砂浜に、ぽつりと白百合の花が置かれていた。半分閉じられた傘のように逆さまに立てられていた。私がそれを見つけた次の瞬間、白百合がびくりと震えた。見つかってしまった、どうしよう、どうすれば誤魔化すことが出来るだろう、というような震え方だった。私は不思議に思ってその白百合に歩み寄る。すると、それが立ち上がった。花の内側から手と足が現れて、すっくと立ち上がったのだ。胴体は見えず、長い脚と長い腕だけが逆さまになった花片の裾から生え出ていた。誤魔化すことは諦めたのだろう、と私は思った。

 そのとき、珊瑚片がぶつかり合う音が私の周りに響き渡った。私の周りで風が渦を巻いて、それが音を解き放ったようだった。と同時に、いつの間にか私の周りにたくさんの白百合が集まっていることに気づいた。もちろん全て逆さまで、長い脚と長い腕が生え出ている。白百合たちは砂浜で一塊に集まると、擽り合うように互いに何度も身を擦りつける。何かの相談が交わされているように見えた。持ち寄られた情報が同期されているように見えた。それから彼らは波打ち際の近くで輪になって、踊り始めた。沈むような跳ねるような、掻き混ぜるような踊りだった。前世を手繰り来世を纏い、久遠を棚引かせるような踊りだった。

 胸が苦しくなって、呼吸を忘れていたことに私は気づいた。瞬きも忘れていたために、両眼から涙が滲んでいた。血流が止まるかもしれないという不安に突然襲われて、そんなはずはないと私は自分に強く言い聞かせなければならなかった。

 白百合の円舞、その輪の内側に仄かに輝く玉が形成される。それは虹の七色に彩られている。白百合たちが一斉に跳ねる。七色の玉が空へと打ちあげられた。そしてそれはそのまま宙で展開し、二重の大きな半円になった。

 ああ、虹の種だったんだな、と私は思った。

 全ての虹が、このような種から生まれるわけではないだろうけど、こんな風な虹の生まれ方もあるのだろうな、と思えた。

 白百合たちが横一列に並び、一斉に私にお辞儀した。

 

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