世界樹を翼に

JUGEMテーマ:ものがたり

 

 葉は一枚もないけれど、その大樹は枯れてしまったわけではないし、枯れようとしているわけでもない。その木は世界樹だったけれど、隻眼の老人が枝を手折ったわけでもない。あんなのはデタラメの嘘っぱちだ。だからその大樹は三界を結んで、エナジーを循環させている。休むことなく精密に静謐に。

 では何故葉がないのかというと、それは私のお腹が減っているからだ。本当に切実に減っているからだ。それで、私はブラボーを待っている。木の根元で蹲り、不機嫌な顔で空と大樹を睨み。もうどうせなら黄昏れてしまえばいい、とか考えながら。ともかくどうして私のお腹が減ると世界樹の葉がなくなるのか。そのイコールを顕わにするためには、世界というものの成り立ちと、私というものの成り立ちを、詳らかにしなければいけない。どちらもとても面倒くさいので、省略。

「不機嫌なアルファは、とても不機嫌だ」

 両手にバスケットを抱えて、ブラボーが現れる。空間の隙間から転写されるように。余剰次元の奥から弾き出されるように。

「遅いブラボーが、とても遅いからでしょう」

 私は跳ね起き、ブラボーの鼻先に私の鼻先をくっつけて叫ぶ。ブラボーは二つのバスケットを地面に下ろし、微笑む。

「叫ぶアルファは、叫ぶから可愛い」

「微笑むブラボーは、微笑むから優しい」

 私たちは抱きしめ合い、許し合う。

「空腹なアルファは、その前に協力しなければいけないよ」

「協力されるブラボーは、愉快でなければいけないわよ」

「もちろんだ、もちろんに違いないよ」

「もちろんね、もちろん過ぎるくらいがいいわ」

 ブラボーはバスケットの一つから半透明の布を取り出す。

「ヴァルハラからシーツをくすねてきたからね。翼にするのさ。世界樹に被せてね」

「世界樹に被せるのね。翼にしてしまうのね。ヴァルハラからくすねてきたシーツだからこそ」

 私たちはその半透明のシーツを世界樹に覆い被せた。一瞬世界が薄暗くなり、直ぐに眩しくなる。世界樹が黄金色に輝きだしたから。二枚の翼になって強烈に輝きだしたから。二枚の翼は白銀のリボンで結ばれていた。

「どうするの? この翼で、飛ばないわけにはいかないのでしょう? 世界が飛べば、飛ばないのと同じじゃない?」

「同じじゃないさ、本当にね。別の世界が覗き見ているから。そういう境界を越えてしまうのさ。先の先が後ろになる。でも」

 ブラボーがもう一つのバスケットからトーストを取り出す。

「空腹なアルファは、ルビーのマーマレードをたっぷりとのせるんだ。飛ぶのはその後だね」

「ルビーのマーマレードを頂くわ。飛んでしまう前に」

 私たちはたっぷりとジャムを塗り重ねたトーストを食べた。笑い出すくらいに美味しかった。

 

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