City of luminous insects

JUGEMテーマ:ものがたり

 

 細い林道、というよりはほとんど獣道のような道をマウンテントレールモーターサイクルで進む。両側から被さる木々の圧迫感を気持ちで撥ね除けながら、あるいは半ば抱きしめられてもいいやと開き直りながらスピードを上げてみたりする。少し目線を上げると青緑の無数の葉の輪郭が陽光で輝き滲んでいる。その一つ一つが天使に思えた。すると私は天国へと疾走しているのだろうか。そんなに品行方正な人生を歩んできてはいないけれど。

 唐突に空間が開け森が終わる。もちろんそこは天国ではない。かなり汚れてはいたけれど、アイボリーの石で組み上げられた円形の展望台だった。モーターサイクルを止め、石に触れる。とてもごつごつしていて、拒絶されているように見える石だったけれど、触り心地は滑らかで不可思議な魅力を感じる。展開されているような感覚だ。誰がどうやってここにこの石を組み上げたのかは知らないけれど、その誰かの祈りが今も展開され続けているように感じる。そしてこれからも展開され続けるだのだろうと思える。

 そこからは都市が見えた。その向こうに海が見えた。三方を山に囲まれた海辺の都市だ。海の向こうの空、斜めから降り注ぐ鋭い陽光が、都市を照らしている。その東からの光が、都市の過去を浮かび上がらせている。都市はまだ活動していた。その内部に多数の内燃機関を有し、電気や水や通信の網目が精密に連動していることが窺えた。私の目には、その連動が透明な煌めきとして感じられる気がした。巨大な懐中時計のような都市だ。正確無比に時を刻んでいる。そのことに強く誇りを感じている。

 私は展望台に荷物を広げ、遅い朝食を取る。テントを張り、ハンモックを組み立て、コーヒーを湧かす。時刻は速くも遅くもなく進み、太陽は真上へと移動する。

 中天からの陽光が、都市を熱する。そこにあるのは未来の都市だ。遙かな未来の都市に熱量を与え、蘇生を試みている。それはつまり、そこに存在するのは既に死を迎えた都市だということだ。廃墟の都市が海風に吹かれている。与えられる熱は都市のエナジーにはならず。海風に食い尽くされ、消化される。透明な獣の群れが嘲う声が聞こえた。寂しい声だと思った。けれど私の気持ちの片隅が、心地よい興奮を感じてもいた。私の血流のどこかに、きっと獣が潜んでいるのだろう。爪や牙は錆び付いているかもしれないけれど。

 ハンモックに抱かれ、眠る。この夜に眠くならないように。

 夢を見ることもなく、深く眠った。いや、夢は見たかもしれない。でも記憶として記銘されるには、私の心は中庸過ぎた。

 目覚めたときには、黒い空がざわついていた。都市の今が覚醒しようとしていることは明らかだった。私はハンモックから飛び起き、闇に沈む都市に目を凝らす。

「さあ、行こう」

 微かに、そんな声が聞こえたような気がした。そして一つの光が、清浄な青い輝きが都市の真ん中辺りから浮き上がり上昇する。さらにそれが伝播するように、都市のあちらこちらから輝きが浮き上がり上昇する。ゆらゆらと揺れながら、緩やかに、思慮深く、都市が空へと輝きを降らす。それはきっと知性の循環で、そこにはだから魂の成分は含まれてはいないだろう。

 綺麗だと思った。いやそれよりも怖いと思った。いやそれよりも、愛しいと思った。

 

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