Strange alley

JUGEMテーマ:ものがたり

 

 突然の雨に、路地に逃げ込む。細い路地は両側に商店がぎっしりと並び、その両側から伸びる軒が重なり合っている。だから空は見えなかったけれど、雨に降られることもなかった。それでも空気は湿っていて重かった。その路地に足を踏み入れたのは初めてのことだったので、それは雨のせいではなかったのかもしれないが。

 蛇行してどこまでも続いていく路地は、犇めく店舗の軒に異常に過剰にぶら下がるオレンジの電球の光で溢れていた。にもかかわらず、そこかしこに散らばる闇の欠片が、その鋭い邪心を強烈に放っていることが気にかかった。路地の終点には、天国と地獄がまぐわって存在しているのではないだろうか、などと思えた。

 並ぶ店舗は皆同じに見えた。それぞれの店が専門的な商品を並べているというわけではなく、何でもかんでも、生活に必要なものも必要無いものも、手当たり次第に並べているという感じだった。もちろん細かな品揃えに相違はあるのだろうけど、一見してそれを感じ取ることは出来ない。それぞれの店が互いに擬態し合っているように感じた。

「飛び立ちたいなら、まずは翼が必要だよ」

 店舗の一つから見知らぬ男に声を掛けられた。流暢な地球語だった。

「地球の人だろう?」

「ええ」

「潜りたいなら、まずは鰓が必要だよ」

 ニコニコ笑ってその男は手招きする。私は男の店に近づく。

「飛ぶなら翼、潜るなら鰓だね」

 男が繰り返す。私は首を傾げるしかなかった。

「どういう意味です?」

「どういう? 挨拶じゃないか。地球の挨拶はこんな感じなんだろう?」

「いえ」

「おや、この前のお客さんにはそう教わったのにな」

 私は商品に目を落とす。オレンジの照明が主張しすぎていて、どの商品もオレンジ色に染まっている。しかしその中で何故か一つだけ澄んだ水色の商品があった。それは丸く平べったく、メニスカスレンズのようにカーブしていた。私の掌より二回りほど小さいサイズだった。思わず手に取ってみる。掌にのせると、次の瞬間私の掌に沈むように溶けるように消えてしまった。

「毎度あり」

 男が一礼した。

「え?」

「もう分離できないから、お買い上げいただくしかないね」

 仕様がないので、提示された金額を払う。

「これは、何なのですか?」

「護符だよ」

「護符?」

「お客さんはもう城の中にいるんだよ。もし近衛兵として雇われたいのならこのまま進むといい。地球の人なら大歓迎されるだろう。強いからね。高給をもらえるよ。でもそのつもりがないのなら、引き返したほうがいい。雨には濡れてしまうけど、直ぐに引き返したほうがいい。どちらにしても護符が昇華してくれるよ」

 護符にどんな効果があるのか、さっぱり解らない説明だった。

「で、どうする?」

「私はまだ放蕩の途中だから、兵にはなりません」

「では、さようなら」

 男が軽く手を上げる。私もそれに手を上げて答え、路地の外へと歩きだした。

 雨はさっきより強まっていて、私は直ぐにびしょ濡れになる。護符は、雨からは護ってはくれないようだ。

 

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