桜花のオルガン

JUGEMテーマ:ものがたり

 

 夜はまだまだ冬色だった。銀色の半月が、輝きを散りばめて熱を奪っているように思えた。兄さまの熱を、僕の熱を、世界の熱を。その熱は別の世界へと運ばれ、その世界を灼熱にしているのかもしれない。そうなら良いのになと思った。たとえそれが悪しき蹂躙であったとしても、消えてしまうよりはずっと良いと思えたから。

 僕がそんなことを考えてしまったのは、桜花のせいかもしれない。月下の桜花はとても可憐だったけれど、どこか狂おしい精気を放っているように感じられたから。

「すけ、桜の樹の根元にはね、柘榴が埋まっているのだよ」

 傍らに立つ兄さまが、桜花を見上げて囁いた。

「その柘榴はね、オルガンでもあるのだよ。桜のオルガンだね。そしてそのオルガンは、誰かに奏でられるのを待っているのだよ」

 兄さまは歌うように言い、桜の樹の根元を指差す。

「その柘榴はね、ドクドクと脈打ち、鮮血のような紅色の果汁を滴らせているのだそうだよ。まるで傷だらけで悶える心臓のようなのだそうだ」

 兄さまは桜の樹の根元を適当に掘り返す。土で汚れた両手は、月光の下では乾いて凝固した血液のように見えた。

「だめだ、見つからないね。どこに埋まっているのだろうね。すけもやってご覧よ。すけなら、見つけられるのではないかな」

 僕は促されるままに土を掘り返す。何度かやってみたけれど、何も現れなかった。

「ああ、すけでもだめか。桜の精気で熟したオルガンを奏でてみたかったのにな。仕様がないね、今夜はすけのオルガンを奏でることにしようかね」

 兄さまはそう言って、僕の胸を擽る。僕が笑い出すと、兄さまは満足気に何度も頷いた。

 

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