Ruby or horn or …

JUGEMテーマ:ものがたり

 

 ルビーが降り続いている。ピジョンブラッドのルビーが。天上世界で、絶え間なく殺戮が繰り返されているかのように。あるいは実際にそうなのかもしれない。天上世界の詳細を彼女は知らないのだから、それを否定することも出来ない。もっとも、天上世界の存在を、彼女は信じてはいなかったけれど。とにかく、マルキーズ・ブリリアントカットのルビーが降り続いていた。どんなに記憶を遡っても、彼女は青空を思い出せない。

 

 角が降り続いている。二日月のように細く両端の尖った角が。微かな弧を捻れながら描く角は、聖なる獣の角かもしれない。天上世界で、その聖なる獣は角以外の全てを薬に変えられていて、いらない角だけが絶え間なく廃棄されているのかもしれない。聖なる獣は群れごとごっそり捕らえられ、自動人形たちに自動的に角を落とされているのだろう。その薬はきっと万能薬なのだろう。天上人の不老不死を支えているのかもしれない。そんな天上人の存在を、彼は信じていた。

 

 ルビーが降り続く都市で彼女は青空を思い出せないだけではなく、夜を知らなかった。角が降り続く都市で彼は、夜しか知らなかった。彼女は彼を知らない。彼は彼女を知らない。けれど彼女の都市と彼の都市は、同じ都市だった。その謎は、永遠に解けない。

 

 ときどき降り落ちてきたルビーに触れた人が、ルビーへと分解されることがある。彼女はその瞬間を一度だけ目撃したことがある。その人は頭の天辺にルビーが当たった瞬間に、無数のルビーの群体へと変化し、ばらばらと崩れ、地面に散らばった。天から降ってくるルビーは地面で雨滴のように溶けてしまうものなのに、その散らばったルビーは溶けなかった。しばらくそのままで無秩序に転がったあと、砂のように細かく崩れ、風に舞い上がるように拡散して消えた。

 

 ときどき降り落ちてきた角に触れた人が、角へと解体されることがある。彼はその様子に一度だけ出会ったことがある。その人は額の真ん中に角があった瞬間に、無数の角が絡まり合う樹木へと変化し、はらはらと裂け、地面に散らばった。天から降ってくる角は地面で直ぐに土に返るけれど、その散らばった角は土には戻らなかった。しばらく点火前の焚き火のような小山を作り、そのあと粉状に崩れ、波のような形で地を這って拡散され消えた。

 

 ルビーに分解されることが何を意味しているのか、彼女は知らない。角に解体されることが何を意味しているのか、彼は知らない。その謎を知ることは、永遠にないだろう。

 

 百年に一度、ルビーの都市に地面から角は生えることがあるという。それは直ぐに地面から浮き上がり、微笑む天使に変身して天上へと昇っていくという。百年に一度、角の都市の地面からルビーが現れることがあるという。それは直ぐに地面から浮き上がり、微笑む天使に変身して天上に昇っていくという。彼女も彼もその光景を見たことはない。

 何かの循環が起こっているのかもしれない。しかし何の循環なのかは、永遠に解けない謎なのだろう。

 一つのはずの二つの都市に、透明な雨が降ることはない。

 

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