窓の向こうの人々は皆泣いている

JUGEMテーマ:ものがたり

 

 夕暮れ時、ドイツシェパードと河川敷を散歩する。河の上流方向には低い山、所々が赤茶けた青緑の山。その向こうの空は、UFOが墜落したかのような紅色をしていた。ドイツシェパードが低く唸る。河の下流方向を見つめている。そちらから列車が近づいてきていた。ゆっくりと、河の水面から少し浮いた状態で、時折ギシキシと軋む音を立てながら。

 客車を引っ張っているのは、犀だった。巨大な犀だった。客車は一派的な電車のそれと同じくらいのサイズだったが、犀の方も同じ大きさだった。六両の客車を三頭の犀が引っ張っている。三頭とも、全身から湯気のようなものを立ち上らせていた。ギシキシという音は、客車ではなく犀たちから発せられている音だった。彼らの筋肉の稼働音のように思えたりもした。

 犀たちは虹の七色の斑模様をしていた。迷彩模様のパターンのような斑だった。しかしもちろん迷彩の意味で獲得した模様ではないだろう。虹の七色で紛れ込める風景などないだろうから。それとも私が知らないだけで、世界にはそんなカラフルな風景がどこかにあるのかもしれない。そういう森が、あるいはそういう岩場が、あるいはそういう桃源郷が。

 山の向こうの紅が沈んでいく。空が宇宙に近づいていく。黄昏の空気の中で、犀たちの身体は虹色に発光を始める。乱流を巻き起こしながら、犀列車が私の横を通過していく。焦げ茶色をした客車はとても重そうだったが、犀たちの力の方が十分にまさっているらしく、スムーズに走っている。車内には煌煌と明かりが灯っていて、全ての窓辺に一人ずつ乗客が見えた。年齢、性別、人種、時代、その全てに統一感のない人々が、窓の向こうからこちらを見つめている。

 はらはらと、涙を流していた。

 全ての乗客の、それだけが共通点だった。

 ドイツシェパードが行儀良く座り、大気圏の外にまで届きそうな遠吠えを上げた。あなた方のことは、決して忘れませんよ。と言っているようだった。そして、あなた方の涙を舐め取ることができなくてすみません。とも言っているようだった。

 私に何ができるだろう。彼らのその涙に。

 UFOの紅はすっかり去り、私は銀河に抱かれていることを感じる。彼らはこれから銀河を抱きしめることになるのだろう。何もかもを超越して。しかし今は寂寞の想いだけを纏い、はらはらと涙しているのだろう。

「私には、まだ遠いのだろうか」

 呟きは犀たちの乱流に巻かれ、霧散する。

 私は深々と一礼し、犀たちの虹色光が完全に見えなくなるまで見送った。

 

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