Sandstorms and blue sunsets

JUGEMテーマ:ものがたり

 

 激しい砂嵐。視界は限りなくゼロに近かった。彼はほとんど手探りで作業を進めていく。砂に半ば埋もれたソーラーパネル群を探しだし、それらを取り囲むように装置を設置していく。冷却システムは全開で稼働しているはずなのに、機動服の中で彼はすぐに汗だくになった。

「本当に、この砂嵐は止むのか?」

 彼は不機嫌に叫ぶ。

「ああ、スパコンがそう予想している。三十分以内に止むんだそうだ」

 オペレータの冷静な声が、返ってきた。

「くそ、どこかから砂がスーツに入って来てる。身体のどこかがジャリジャリする」

「気のせいだ。センサには、何の反応もない」

 彼らの会話に割り込むように、クスクスという笑い声が響く。妖精たちが舞っているのだ。砂嵐のせいでその姿は見えない。もっとも、砂嵐が収まっているときには妖精たちは現れないので、結局のところ妖精たちの姿を見たものはいない。もっと正確に言うならば、妖精たちの姿を目視して生きている者は一人もいない。

 高音のノイジーな咆哮が聞こえる。竜の唸りだ。竜の姿もまた、彼は知らない。妖精の場合と同じ理由で。彼はときどき自問する。命をかけてでも妖精や竜を見たいだろうかと。見たいという思いが半分、死にたくないという思いが半分。それが彼の正直な気持ちだった。ここがファンタジックな世界なのだということを、この惑星に来るまで彼は知らなかった。それを知って、彼は以前よりずっとこの惑星のことを好きになった。妖精や竜の存在を感じられる今の仕事のことも、彼は嫌いではなかった。

「フェアリーとドラゴンの声が遠ざかっている。もうすぐ嵐が止むんだな」

「そうだ。もうまもなくだろう」

「何だか、やつらを追いかけたくなるな」

「それは危険だな。作業に集中しろ」

「ああ、そうだな」

 オペレータと会話している間に、砂嵐は去って行った。フェアリーもドラゴンも。

「スイッチを入れてくれ」

「了解した」

 彼は装置のメインスイッチを押し込む。装置から曲線を描いて撓る腕が次々と伸び出し、ソーラーパネル表面に積もった砂を払い落とし始める。

「装置は正常に作動した」

「了解だ。ベースに帰還してくれ」

 彼は乗ってきたバギーへと歩き始める。嵐のあとの澄んだ空が、青い夕焼けに染まっていた。その空に、衛星フォボスが浮かんでいた。

「地球は遠いな…」

 彼は呟き、バギーを始動する。

 

スポンサーサイト

コメント