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JUGEMテーマ:ものがたり

 

 山中の小道を、私は歩いていた。道は細かくうねり、一方の側は急激に立ち上がる壁で、もう一方は奈落に続くような急斜面だった。しかし道はちゃんと舗装されていて、斜面側にはガードレールまで設置されている。道は那由多の樹木や植物に取り囲まれていて、空はその隙間に尖った斑として散りばめられているだけで、落ちてくる陽光もとてもか弱かった。植物の大半はシダ類で、空気は高熱を孕んでいて、時間はひたすらに沈んでいるようだった。

 私はピンクと白の縞模様の靴下と紅色の靴を履いていた。そしてそれ以外は何も身につけていなかった。いつから、どこから、どこに向かって歩いているのか、思い出せなかった。たぶんまた、道に迷っているのだろう。

 私の両腕にはローブが括り付けられていた。二本のロープは進行方向のずっと先まで伸びている。でも、そのロープに引っ張られて歩いているわけではない。そして私が歩いてもロープが弛むこともなかった。

「やあ」

 誰かが私を追い抜いていく。羊だった。かなり毛が汚れた羊だった。

「こんなところを歩いているなんて、いやらしいね」

 羊は二足歩行している。私を見つめたまま、後ろ向きに歩く。

「しかも縛られているじゃないか。なんて卑猥なんだ」

 汚れた羊が二本のロープを掴み、激しく揺さぶる。すると私の身体全体が揺さぶられ、私は宙を舞う。

「食べられたいんだろう? 食べていいんだろう?」

 汚れた羊がロープを操る。私はマリオネットのように舞いながら羊へと落ちていく。たぶんこれはいけないことなのだろうと思ったけれど、きっと気持ちいいことが始まるのではないかと昂揚もした。

「切り裂かれたいんだろう? 切り裂かれてから食べられたいんだろう?」

 私は汚れた羊に受け止められ、両腕をもぎ取られ、両脚をもぎ取られ、首をもぎ取られた。痛みは無かった。異次元へと突き抜ける快感だけが、切断面から私を満たした。六つの部位が快感に震えながらアスファルト面に弾む。弾む私の眼差しが捕らえたのは、汚れた羊に襲いかかる純黒の犬の姿。私はそれに安心して目を閉じ、快楽に溺れることに集中する。純黒の犬の殺戮の咆哮と、汚れた羊の意味不明な恐怖の叫びを聞きながら。

 

「まったく、あなたはすぐに迷ってしまう」

 気がつくと私は彼に抱きかかえられていた。身体はすっかり元に戻っていて、快楽の波動も去っていた。トウアマリヒトツが私の頬を遠慮がちに舐めていた。

「そうね、すぐに迷ってしまうの。でも、あなたと出会ったのも、この迷い癖のおかげじゃ無かったかしら」

 私の言葉に、彼は柔らかく笑った。青系洋上迷彩のカエル頭からはとても表情が読み取りづらかったけれど、私にははっきりと解った。

「確かにそうですね」

 私を軽々と抱きかかえたまま、彼は歩きだす。あの羊は何のか、私の腕に繋がっていたロープは何なのか、彼はきっと知っているだろう。けれど私は何も尋ねなかった。

 

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