transmission of color

JUGEMテーマ:ものがたり

 

「おい、おい」

 野太い超えに眠りから覚まされた。暗い部屋を見回すが誰もいない。

「違う、外だ」

 ベッドから出て窓のカーテンを開く。ベランダの柵にミミズクが一羽とまっていた。半月の月光がミミズクを斜めに照らし、そのグレーの身体を煌めかせていた。

「伝えたいことがある。窓を開けてくれ」

 声は確かにミミズクから聞こえてきた。僕は窓を開けてベランダに出る。何故だかそのミミズクに触れたくなったのだった。

「待て」

 ミミズクが翼を大きく広げた。月光が陰り、夜が僅かに冷えたように感じた。

「ああ、お前は健全だ。ここでは世界を救う必要はない」

 ミミズクはその翼を僕に向かって差し出す。

「シグナル、グリーン。さあ、抱かせてくれ」

 僕はミミズクに歩み寄り、その翼の内側に身体を預けた。

「次の色彩は、お前が伝達するんだ」

 ミミズクの翼が僕を包み込む。次の瞬間僕の脳裏にイメージが氾濫する。ミミズクが大空を飛ぶイメージ。長い長い距離を懸命に飛ぶイメージ。雨の中を、雷鳴の狭間を、強風に逆らい、星の導きも月の導きもなく、ただ己を信じて飛び続けるイメージ。夜はいつまでも明けない。何故ミミズクは飛んでいるのか。それは世界を救うためだ。どこかにあるはずの救われるべき世界を目指して、ミミズクは飛び続けている。

 海を越え、山岳を抜け、荒野を横切り、都市に辿り着く。そこはまだこの世界だろうか。違う世界かも知れない。でもそれは重要ではない。そこが救われるべき世界なのかどうかが重要なのだ。ミミズクは都市の片隅に降下し、一軒の住宅のベランダに降り立つ。

「おい、おい」

 それは僕の声だった。ミミズクは僕だった。いつの間にか、僕は使命を受け継いでいたのだ。

「外だ。外にいる」

 カーテンが開かれ、現れた人物は人間だった僕と同じ姿をしていた。

「伝えたいことがあるんだ。窓を開けてくれ」

 人間の僕が窓を開け、僕に近づく。

「待て」

 人間の僕は右のこめかみから血を流していた。その鮮血が、月光に煌めいていた。

「ああ、お前は不健全だ。世界を救わなければならない」

 ミミズクの僕がそう言うと、人間の僕は部屋に引き返し、すぐに拳銃を手にして戻ってくる。

「そういうことだ。お前に伝達する。シグナル、レッドだ」

 人間の僕が軽く肩を竦め、拳銃の銃口を右のこめかみにあてる。唇の両端だけで微かに笑っていた。同時に涙を流していた。ミミズクの僕を真っ直ぐに見つめ、人間の僕は引き金を引いた。

 世界は救われた。

 

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