2022.10.07 Friday
transmission of color
JUGEMテーマ:ものがたり
「おい、おい」
野太い超えに眠りから覚まされた。暗い部屋を見回すが誰もいない。
「違う、外だ」
ベッドから出て窓のカーテンを開く。ベランダの柵にミミズクが一羽とまっていた。半月の月光がミミズクを斜めに照らし、そのグレーの身体を煌めかせていた。
「伝えたいことがある。窓を開けてくれ」
声は確かにミミズクから聞こえてきた。僕は窓を開けてベランダに出る。何故だかそのミミズクに触れたくなったのだった。
「待て」
ミミズクが翼を大きく広げた。月光が陰り、夜が僅かに冷えたように感じた。
「ああ、お前は健全だ。ここでは世界を救う必要はない」
ミミズクはその翼を僕に向かって差し出す。
「シグナル、グリーン。さあ、抱かせてくれ」
僕はミミズクに歩み寄り、その翼の内側に身体を預けた。
「次の色彩は、お前が伝達するんだ」
ミミズクの翼が僕を包み込む。次の瞬間僕の脳裏にイメージが氾濫する。ミミズクが大空を飛ぶイメージ。長い長い距離を懸命に飛ぶイメージ。雨の中を、雷鳴の狭間を、強風に逆らい、星の導きも月の導きもなく、ただ己を信じて飛び続けるイメージ。夜はいつまでも明けない。何故ミミズクは飛んでいるのか。それは世界を救うためだ。どこかにあるはずの救われるべき世界を目指して、ミミズクは飛び続けている。
海を越え、山岳を抜け、荒野を横切り、都市に辿り着く。そこはまだこの世界だろうか。違う世界かも知れない。でもそれは重要ではない。そこが救われるべき世界なのかどうかが重要なのだ。ミミズクは都市の片隅に降下し、一軒の住宅のベランダに降り立つ。
「おい、おい」
それは僕の声だった。ミミズクは僕だった。いつの間にか、僕は使命を受け継いでいたのだ。
「外だ。外にいる」
カーテンが開かれ、現れた人物は人間だった僕と同じ姿をしていた。
「伝えたいことがあるんだ。窓を開けてくれ」
人間の僕が窓を開け、僕に近づく。
「待て」
人間の僕は右のこめかみから血を流していた。その鮮血が、月光に煌めいていた。
「ああ、お前は不健全だ。世界を救わなければならない」
ミミズクの僕がそう言うと、人間の僕は部屋に引き返し、すぐに拳銃を手にして戻ってくる。
「そういうことだ。お前に伝達する。シグナル、レッドだ」
人間の僕が軽く肩を竦め、拳銃の銃口を右のこめかみにあてる。唇の両端だけで微かに笑っていた。同時に涙を流していた。ミミズクの僕を真っ直ぐに見つめ、人間の僕は引き金を引いた。
世界は救われた。