2020.04.03 Friday
DonGun -前編-
JUGEMテーマ:自作小説
ピカピカのスーツの銀色が眩しくて、少し恥ずかしかった。「飾りがなくて寂しいね」とお祖母ちゃんは言ってたけど、スーツの全部が飾りのようなもので、これ以上に何を飾り付ける必要があるのだろうと、僕には思えた。でもお祖母ちゃんはきっとお祖父ちゃんのスーツ姿を思い出しているのだろう。するとお祖父ちゃんはこの銀ピカのスーツに飾り付けをしていたのだろうか。どんな? 想像もつかない。クラントストル方程式を紋様化して飾っていたりしたのだろうか。それならきっと重かっただろうな。でも鎧のようでかっこよかったかもしれないな。
指定された場所は広大なパーキングだった。今は一台の車もない。そして周りには建物が全くない。何のためのパーキングなのかは解らない。ドローンのための施設なのだろうか。
「早いな」
背後からの声に振り返ると、顔の下半分が焦げ茶の髭に隠された四角い人が立っていた。銀ピカのスーツに包まれた身体も、顔も、目も四角かった。きっと髭に隠れている口も四角いに違いない。
「どうやってここまで来た?」
「転送です」
「凄いな。あんな気持ち悪いのを使えるとは」
「はあ」
「俺はワイフに送って貰った。あれだ」
四角い人は斜め上を指差す。ドローンが飛び去っていく。
「俺はグンジ・ソウタロウだ。グンソウと呼んでくれ、よろしく」
四角い人、グンソウが右手を差し出す。
「どうも、カンナヅキ・ハチロウです」
僕も右手を差し出し、握手する。グンソウの握手はもの凄かった。それは力がという意味だけではない。もちろん力も強く痛みもあったけれど、それよりも何かが流れ込んでくるような気がした。凄く粘度の高い、それなのに爽やかな感じがする何かが。
「じゃあ、おまえはカンパチだな」
勝手に僕の呼び名を決めると、グンソウはスマートウオッチを操作する。するとパーキングの隅の一角が四角く持ち上がり、ストレージルームが現れた。グンソウはそれに歩み寄り、中から二本のハンマーを取り出す。両方とも僕の身長くらいの長い柄で、僕の頭より大きなヘッドがついている。一つはそのヘッドの両端が平たく、もう一つは両端が尖っていた。
「カンパチのはこれだ」
グンソウは両端が尖っている方を僕に渡す。両手で受け取ったけれど、よろめきそうになるくらいに重かった。
「おまえはクラッチ、俺はブレーキだ」
「何です?」
「だから、おまえがクラッチで俺がブレーキだと言ったんだ」
「どういう意味でしょう?」
「何だと、役所で講習を受けなかったのか?」
「はい。役所からここに行くようにと言われただけです」
「マジか。するとおまえはもの凄く適性が高いんだな。親族にドンガンがいるのか?」
「はい。祖父がドンガンでした」
「なるほど、了解した」
グンソウはストレージルームから二台のヘッドギアを取り出し、一台を僕に差し出す。僕は受け取り装着する。グンソウがやるのを見よう見まねで起動させると、心地良い起動音が響いてバインダーが自動的に顔をカバーした。
「うん、そんな感じだ」
グンソウが僕をチェックして親指を立てる。
「では行こうか。ドローンに乗れ」
そう言って、グンソウはパーキングの中央辺りを指差す。いつの間にか、そこに二機のドローンが待機していた。グンソウはすたすたと歩き出し、僕はもたもたと追いかける。
「僕、ドローンのライセンスを持っていませんけど」
「大丈夫だ。ドローンはセンターにいるパイロットが操縦する。俺たちはただ乗っかるだけだ」
「乗っかって、どうするんです?」
「おまえ、ホントに何も知らないんだな。もうすぐここに獣人が現れる。そしたら俺たちはドンガンとやるんだよ」
「ドンガンと何をするんです?」
「だからドンガンとやればいいんだよ。おまえがドンで俺がガンって感じでな」
グンソウに背中を押され、僕はドローン乗せられる。そしてグンソウの手であっという間にドローン上に固定された。
「もう一度言っておこう。おまえがクラッチ、俺がブレーキ、そしてアクセルは獣人だ」
グンソウのドローンが離陸する。それに追随して僕のドローンも離陸する。僕はハンマーを握る両手に力を込める。何が何だか解らないままに、僕の初仕事が始まる。
中天から僕を突き刺す陽光が眩しかった。