2019.10.09 Wednesday
radio wave
JUGEMテーマ:ショート・ショート
「それでも、私たちは行かなければいけないのね」
「そう。気が遠くなるほど、長い道のりだけどね」
「地図もなしに?」
「地図はあるんだ。けれど、それを読み取ることが出来ない」
「未知の言語で書かれているの?」
「言語も、記号も、その他の何もかもも、全てが未知だ。だから僕たちには、その地図はとても綺麗な紋様にしか見えない」
「それはそれで愉しいわね」
「もちろん愉しいね。役には立たないけれど」
「そうかしら。綺麗な紋様は私たちの気持ちに凪をもたらすでしょう。その凪ぎが、私たちを導くでしょう」
「それは予言かい?」
「予言ではないわ。慈しみよ」
「では、僕らは慈しみ慈しまれて行こう」
「そうね、慈しみ合いながら進みましょう」
「旅路は、久遠を重ねなければいけないくらいに遥かな裾を拡げているから」
「そしてそれは、棚引いていたりするのでしょう?」
「そうだね。でも僕たちは凪いでいる」
「その凪を頼りに、私たちは行くのね」
「その凪ぎだけを頼りにね」
「何故? 何故私たちは行かなければいけないの? この旅の秘める意味は?」
「それを問うてはいけない。それを問えば、旅に食われてしまうから」
「では問わないわ。ただ紋様を見つめ、気持ちに凪を染み込ませ、旅と対峙しましょう」
「それがいいね。そうすれば、僕らはきっと………
そこでラジオの電波は途絶えた。彼らのその先の変容を、その深層を確認することはできなかった。