radio wave

JUGEMテーマ:ショート・ショート

 

「それでも、私たちは行かなければいけないのね」

「そう。気が遠くなるほど、長い道のりだけどね」

「地図もなしに?」

「地図はあるんだ。けれど、それを読み取ることが出来ない」

「未知の言語で書かれているの?」

「言語も、記号も、その他の何もかもも、全てが未知だ。だから僕たちには、その地図はとても綺麗な紋様にしか見えない」

「それはそれで愉しいわね」

「もちろん愉しいね。役には立たないけれど」

「そうかしら。綺麗な紋様は私たちの気持ちに凪をもたらすでしょう。その凪ぎが、私たちを導くでしょう」

「それは予言かい?」

「予言ではないわ。慈しみよ」

「では、僕らは慈しみ慈しまれて行こう」

「そうね、慈しみ合いながら進みましょう」

「旅路は、久遠を重ねなければいけないくらいに遥かな裾を拡げているから」

「そしてそれは、棚引いていたりするのでしょう?」

「そうだね。でも僕たちは凪いでいる」

「その凪を頼りに、私たちは行くのね」

「その凪ぎだけを頼りにね」

「何故? 何故私たちは行かなければいけないの? この旅の秘める意味は?」

「それを問うてはいけない。それを問えば、旅に食われてしまうから」

「では問わないわ。ただ紋様を見つめ、気持ちに凪を染み込ませ、旅と対峙しましょう」

「それがいいね。そうすれば、僕らはきっと………

 そこでラジオの電波は途絶えた。彼らのその先の変容を、その深層を確認することはできなかった。

 

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